寄稿:Yahoo!ニュース特集で、台湾のデジタル大臣オードリー・タンさんをインタビューさせていただきました。

スポンサーリンク

※こちらの記事は、私個人の感想です。

公開された12月12日には、Yahooニューストップにも掲載されました。

温かい反響をいただき、感激しております。

12/12の特集公開から、温かいコメントをたくさんいただいているようです。

正直なところ、Yahooニュースというのはコメント欄が荒れると聞いていたので(編集部の方ではなく、巷の噂で)、公開後もずっとパソコンに貼りつき動向を見守っていたのですが、不思議なくらい皆さんのコメントが温かく、ホッとして力が抜けヘナヘナになっております。

「台湾はすごい、それに比べて日本は」というのは正直な感想だと思うんですが、きっとそこからが私たちの始まり。

私はここ台湾では外国人なので、政治に対して何も言う立場にはないのですが、実際のところ台湾だって本当に色々な課題を抱えているし、少子高齢化社会などけっこう日本と同じような社会問題に直面しています。
さらには皆さんもよくご存知の通り、いまだ世界から「国」と認めてもらえていないわけですし、中国大陸との関係は複雑ですし、なかなかハードな状況にあるんですよね。

オードリーさんの類稀な才能と、そんな彼女に活躍の場を与える台湾の社会。

Twitterのコメントを見ていると、「オードリーさんも素晴らしいし、台湾社会も素晴らしい」という反応が多かったのがとても嬉しかったです。

そうなんです、本当にいつも伝えたいと思っているのはそこなんです。

私たちの日本社会もそうであってほしいと思います。
では、そういう社会ってどうやって作るんでしょうか?

↓こういうお考えの方々がいらっしゃるから、日本はまだまだ希望だらけだと思います。

私は、生きやすい社会のためには、一人ひとりが(自分と違ったとしても)他者を許容することが大切なんじゃないかなと思うんですが、どうでしょうか。

たぶんですが、小さな島国・台湾は、昔から日本を含む様々な国に統治されて来た歴史などの影響もあって、さまざまなバックグラウンドを持つ人が社会に存在するのが当たり前です。
幼なじみ、クラスメイト、友人や恋人やその家族、先生、同僚、社長・・・生活の中に自分と違う背景を持った人がいるのが、ここ台湾では当たり前なんですね。

一方の日本は、おそらく鎖国していた歴史や、ある程度の人口を保っているからかもしれませんが「自分と違うものをリスクのある存在だと思う」という考えが根付いているように思います。これが良い悪いを話しているのではなくて、そう思う特徴があることを自覚することが大切なのかなと思います。

そんなこともあってか、台湾社会って本当に他者を許容する力が強いと思います(スルー能力、めっちゃ高いw)。
だから私も台湾で中国語が話せない上に親戚が一人もいない日本人シングルマザーとして、6年間も何とか暮らしてこられたんだと思います。

日本社会に少しでも良くなってほしいし、そのためにできることはしたい。

台湾人を見ていると、みんな台湾のことを「自分たちの台湾」だと意識していると思います。
台湾の社会を、政治家だけに任せたりせず、自分たちでなんとかしようということを、自然に考えて行動する習慣ができています。

スポンサーリンク

政治家のせいにするのではなくて、投票に行ったり、政治や社会のことに関心を持ったり、そこから始まるんだなと、恥ずかしながら彼らを見ていて感じました。

よく考えてみたら、そもそも「政治家が自分の損得ではなく、国民のために良い社会を作ろうとして動いてくれるべき」っていう前提自体、奇跡みたいなことなのかもしれない。

「日本の政治家はダメだ」って言うのではなく、「どんな人だったらふさわしい?」という理想の姿をみんなで考えて、大まかに合意して方向性を決め、それにふさわしい人をみんなで探して担ぎ出せば良いのではないかと思いました。

それとこれはあくまで私の予測ですが、オードリーさんはEQがめちゃくちゃ高い方なので、日本の大臣と理不尽に比較されるという形で「すごい」と褒められても、あまり喜ぶような方ではないような気がします。相対評価ではなく絶対評価が嬉しいのではないでしょうか。

個人では無理なことを、チームで成し遂げるということ。

行政院内にあるオードリーさんの執務室入口にて。左から、編集部の安藤さん、近藤、オードリーさん、通訳Chocoさん、編集部の神田さん、フォトグラファー松田さん。

今回の特集企画は、今夏日本に帰省したタイミングから始まっていました。
紀尾井町の編集部にお邪魔して打ち合わせを行い、編集部としてこの特集にどういう想いがあるのかなどをお伺いしました

編集を担当してくださったのは、神田憲行さん。

Yahooニュース特集編集部に在籍されていますが、ご自身が著書もたくさん出されているノンフィクションライターさんです。

神田さんのTwitter
https://twitter.com/norikan2
「文春オンライン」の神田さんのページ
https://bunshun.jp/search/author/神田 憲行

故・黒田清氏を師に持たれる神田さんは、温もりある独自の視線と細部まで見逃さない緻密な取材で、読む者の心を捉えて離さない文章を書かれる大先輩です。

特集作成にあたっては、私の台湾在住のライターとしての目線と、日本最大のウェブ媒体で最も読者に近いところにいらっしゃる編集部としての目線から、何回も話し合いながら記事を作らせていただきました。とても勉強になりました。

写真を撮ってくださったのは、松田良孝さん。

今回撮影を担当してくださった松田さん。新聞社のご出身で、現在は沖縄と台湾の関係を中心に取材を続けておられ、フォトグラファーとしてだけではなく、ご自身で著書も多数出されています。2019年の台湾政府外交部のフェローを務められるほど、台湾に精通された方です。

「ニッポンドットコム」の松田さんのページ
https://www.nippon.com/ja/authordata/matsuda-yoshitaka/

松田さんは事前に行政院のロケハンに付き合ってくださり、どういう写真を撮りたいかといったイメージも膨らませてくださいました。掲載された写真たちからは、オードリーさんの知性ある表情が伝わってきます。

そしてもちろんオードリーさんご本人と、その秘書さん、編集さんに付いて同時通訳を務めてくれたChocoさんほか、さまざまな方のおかげで形にできた特集です。ぜひ一人でも多くの方に読んでいただけたら幸せです。

番外編:オードリーさんから教えていただいたこと

インタビューは当初2時間の予定でしたが、オードリーさんが1時間延ばしてくださり、3時間たっぷりお話を伺うことができました。
(同時通訳をしてくれていたChocoさんには申し訳なかった…埋め合わせはまた今度!)

私たち日本人もすぐに取り入れられるヒントがたくさんあるインタビューとなったのですが、特にフェイクニュース対策のくだりについては、日本の政府や企業、自治体も参考にできると思っていました。特集を読まれて、実際にそう思ってくださった方もいて感激です。

今回の記事では掲載しきれなかったけど、知の巨人オードリーさんから教えていただいたことをいくつか。

「デザイン思考」

アメリカ発のコンサル会社IDEOによるフレームワーク。

デザイン思考/人間中心デザインは、IDEOが1991年の創業以来、Appleの初代マウスをはじめ、人とモノ、人とコトのインタラクションをデザインする上で大切にしてきたアプローチです。 「デザイン思考」は、プロセスや方法論として語られることもありますが、重要なのは「型」そのものではなく、これを実践する人、文化、マインドセットであると私たちは考えています。

https://www.ideo.com/jp/post/our-approach

オードリーさんは、以下の4つの段階に分けて使われていました。

  • discover(発見)
  • define(定義)
  • develop(発展)
  • delivery(提供)

『問題を話し合い』、『立場や経験の違う人々に共通する価値を探し』、『誰も犠牲にならない方法を探し』、そして『これまでになかったような解決方法を出す』という4つの段階です。
オードリーさんから、民主主義においてはこの中の『共通価値を探す』ということが飛ばされてはならないと教えていただきました。

「ラフなコンセンサス」と「ランニングコード」

オードリーさんの大臣としての取り組みの中で成果を上げているもののひとつが「総統杯ハッカソン」です。
まずは民衆が法律と予算の制限を考えずに理想の方法を探り、出した結論を官僚や有識者らが法律や予算、技術方面から実行に移すという流れができています。

これについて、オードリーさんが教えてくれたポイントが、「ラフコンセンサス(大まかな合意)」「ランニングコード(動かしながら実証していく)」という、インターネットの技術企画を決定するIETFの考え方。
これは今の日本にとても必要なことなのではないかと強く感じました。

Rough Consensus, Running Codeの重視 Roughな仕様を作成し、 相互接続実験や実運用を通じて、詳細な仕様が実装される。これは、次の 2つの理由によるものと考えられる。(1) 実装者に工夫が可能な領域を残すこ とにより、よりよい実装が登場する可能性を与える(e.g., TCP)。(2) 実装や 運用を通じて必要な仕様が明かになる場合が非常に多い。これが、Rough Consensusの意味である。

http://rfc-jp.nic.ad.jp/what_is_ietf/ietf_section4.html

「台湾のフレキシブルなところが良い」という感想は私自身が強く感じているところですし、多くの方々からいただいたコメントでした。
では「その柔軟性はどうやったらもたらすことができる?」への答えの糸口が、ここにあるのではないかと思いました。

標準は変わらないという前提の元、 最初から詳細な技術仕様を決定し、 この仕様通りに実装していくのが、 従来型のプロセスでした。 これに対してIETFでは、 まずラフな仕様を作成し、 それから相互接続実験や実運用を通じて、工夫、 改善を加えながら詳細な仕様を実装していくという、 非常に柔軟な仕様策定プロセスとなっています。

https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/ietf.html

「人材の海外流出は“良いこと”」

私はいっとき、台湾でリクルートサイトの企画制作を専門的にしていたことがありました。その時に調べたデータで、台湾におけるハイレベル人材の海外流出は世界でもトップレベルということを知りました。
オードリーさんのような世界レベルの人材が台湾に留まり続けていることに希望を感じる台湾人も少なくなく、台湾に残り続けるのには何か理念があるのかと思って聞いてみると、全く予想外の答えが帰ってきました。

「流出、とってもいいじゃないですか。どんどんしたらいいと思います。台湾人がアメリカで起業しても、台湾にふさわしい環境があると思えばまた帰ってきます。その時、彼らは一人ではなく、仲間を連れて帰ってくる。人材の交流はとても大事なので、海外へ行こうとする人を止めてはならない。大丈夫です、台湾には美味しいものがたくさんありますから(笑)。」

コミュニケーション上手になる方法

インタビューの最後で、どうしたらオードリーさんのようにコミュニケーション上手になれるのか聞くと、「VRで大勢のオーディエンスの前で話す練習をするのがおすすめですよ」と実にデジタル的な解決方法を教えてくれました。

バーチャルスピーチVR
https://virtualspeech.com/

日本語による紹介記事:「仮想空間で「スピーチを練習できるVR」が登場!ジェスチャーや声量を計測して採点も可能」
https://irorio.jp/nagasawamaki/20180831/490624/

このほか、どのVRか記録していないのですが、宇宙から地球を見るものも教えてくださいました。

同じ時代をともに生きる偉人から学べることとは

私はオードリーさんを取材して、第一稿を書き終えて編集さんにご提出した直後に、こちらのブログを書きました。

ご連絡をくださったシングルマザー/ファザーの皆さまへ。お待たせしてごめんなさい、やっとお返事させていただきます。

やっと大きな仕事がひとつ完了しつつあるので、今こそ、ずっとずっと気になっていたことをやりたいと思います。 それは、ここ数年このブログ経由でいただいていた単身家庭をお持ちの方々からのご連絡へのお返事。 一カ月に数回、コンスタントに、単身家庭をお持ちのお父様・お母様方からの連絡をいただきます。 そのほとんどは母子家庭/父子家庭だが台湾に移住したい、友達になって色々アドバイスしてほしいという趣旨のものでした。

yaephone.com/xintiao/5276

これだけではありませんが、私にできることを少しずつ行動に移していきたいと思います。

今回、編集部の神田さんが私に素晴らしい機会を与えてくださったように。
私も、小さくてはあっても誰かに機会をパスできるように、準備しておきたいと思いました。

そして、私の所属する日本とか台湾とかアジアとかいった場所が、お互いを許容できる社会になるように、日々汗と涙を流し、ビールを飲みながら、せっせと修行したいと思います。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

追伸:

今回オードリーさんについて書く時に、「彼女」と書くのがためらわれました。
英語では「they」という言葉が使われるようになったようですが、日本語ではちょうどいい言葉がありません。

オードリーさん自身、トランスジェンダーであることをブログ上で公開された時、男性女性みたいな言葉で区別する場合には女性として呼んでくださいと書かれていたので「彼女」を使わせていただきましたが、本当は「どちらでもない」んですよね。

As such, for people writing or speaking in languages that have gender-specific pronouns, I would very much prefer female pronouns for all of past, present and future tenses. Thanks for your understanding. 🙂

https://pugs.blogs.com/audrey/2005/12/runtime_typecas.html

気が付かない、想像力が足りないだけで誰かを生きにくくしている可能性がたくさんあるのだなと、たくさんの気付きをいただいた取材でした。

スポンサーリンク